易経「繋辞上伝を読み解く」5

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易経「繋辞上伝」を読み解く4
繋辞上伝を読み解く第3章吉凶悔吝、凶を得た時、吉を得た時の身の処し方を説く

易経「繋辞上伝を読み解く」5

是の故に卦に小大有り、辞に険(けん)易(い)有り。辞なる者は各々其の之(ゆ)く所を指す。(繋辞上伝第3章第2節)

「小大」を文字通りに解釈すると誤解しやすい一節です。確かに八卦を見れば、象意と小大、卦徳としての小大はあります。

確かに八卦には象意として乾坤に父母が配されて大きい。艮兌には小男、小女で象意としては小さいですが、これが卦象となると意味合いが違ってきます。

例えば艮を重ねると艮為山という卦になりますが、意味としては大きな山が連なり立ち止まって、進むべき道を改めて考えるという大きな卦徳がありますから、艮が重なる「艮為山」をもってして小さい卦だ、乾が重なる「乾為天」をもってして大きい卦と断じるには意味が通りません。

ならば陽=大、陰=小とし卦象の中の陽卦が卦象の主導権を握っている、あるいは卦象の陰爻(- -)が卦象の成卦主であり、陰爻であるから卦の象意は意義的に小規模である…すなわちそこに卦象の意味合いとしての「小大」に一致をみるのかというと、この解釈にも矛盾が生じます。

例えば「水地比」という卦がありますが、一陽五陰の卦で、一陽である五爻の陽爻(—)がこの卦の成卦主ですが、陽をもって「大」とするならば、水地比は物事がダイナミックに展開、成就に向かう卦と解釈すべきところですが、水地比は「親しみ穏やかに助け合う」という卦徳であって、そこに「大」というダイナミック、ドラスティックなイメージは沸いてきません.

陰=小である解釈も、「沢天夬」という卦を見れば、この卦は上爻の陰爻(- -)が成卦主であって沢天夬の時を支配しますが、陰=小で解釈した時にこの卦に「 夬 =決」の字を当て、決壊の辞がかけられているところに「陰=小」との一致を見ません。

確かに前節までに見てきたように、八卦の卦徳としての小大はありますが、卦象全体をそのまま当てはめるには無理があります。

そこで八卦にある小大の概念をここで卦象に置きかえるにあたり、その意味合いも変化すると考えます。

積極的であるか受動的であるか?

この節の「 是の故に卦に小大有り 」とは、八卦の解釈をそのままに小大を文字通り大きい、小さいで解釈したり、陰=小、陽=大で解釈するのではなく、その卦象が意味する卦辞よりその卦が「積極的な“動”=大」の卦であるのか、「受容的な“静”=小」の卦であるのかで見た方がすっきりします。

上の図は、易経の上経30卦象で、その卦辞より動的な卦、静的な卦に分けたものです。赤字が動、黒字に背景がグレーの卦が静的な卦です。卦の横の陰陽は八卦の陰陽で、太字はその卦の成卦主がある卦になります。

こうしてみると、動の次に静、静が続くと次に動が同じ数だけ続き、実にリズムよく動と静が刻まれていることがわかります。そして上経30卦象で、きれいに動と静が15ずつに分かれます。一方で成卦主に注目すると、必ずしも陽=動、陰=静とは一致しません。

したがって、この節の小大は、卦象としての規模を表すもの、陰陽を表すものではなく、「受容的」「積極的」の観点から読み解くべきです。そうでなければその後に続く「 辞に険(けん)易(い)有り。 」との連続性が考えられません。

「小大」を文字通り八卦の卦徳で解釈したり、陰陽で解釈するのであれば、 「 辞に険(けん)易(い)有り。 」 の「険=険しい」卦は陰的で「小」、一方で「易=易い」卦は陽的で「大」と解釈すべきですが、例えば四難卦と呼ばれる「坎為水」という険しい卦は上下とも八卦は「陽」ですし、世卦主も陽爻(—)です。

しかし「小大」を「受容」「積極」で解釈すれば、「坎為水」は苦難を脱するために積極果敢に行動する、「苦難」という作用の直面に対する「反作用」としての動的な卦辞に、易経の伝える陰と陽の捻じれ、すなわち「螺旋」という意義との一致をみるわけです。

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ゆえにこの節、通して解釈するのであれば、「易の卦に積極的な動の卦と、受容的な静の卦がある。一方で卦象には険しい時を示す卦と、順調、順行を示す卦があるが各々その時を受容して静止するときと、積極果敢に行動する時、その方向性を卦辞は示すのである」となります。

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