易経「繋辞下伝」を読み解く2

易経繋辞伝
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易経「繋辞下伝」を読み解く1
易経繋辞下伝を読み解く 第1章第1節

易経「繋辞下伝」を読み解く2

吉凶とは、貞(てい)にして勝つ者なり。天地の道は、貞にして観(しめ)す者なり。日月の道は、貞にして明らかなる者なり。天下の動は、かの一に貞なる者なり。(繋辞下伝第1章第2節)

繋辞上伝でもすでに読み解いてきた所ではありますが、「吉凶」を善悪で判断すると易経の解釈は極めて狭義なものとなります。従ってこの節も善悪の基準で読み解くと、孔子の示した深い読み説きに触れることの無いまま、そのまま表面的、狭義な易経の解釈に終始してしまいます。

「 吉凶とは、貞(てい)にして勝つ者なり 。」

「吉凶の理は、(陰も陽も)常に“生じる”という作用に終始する」

この一句、吉凶を善悪でとらえるとそのまま受け継ぐ「貞」と「勝」の文字にからめとられ、理解が表層的になってしまいます。「天道は常に正しい者の味方」であるという解釈は、これはこれで正しいし、説得力があります。ただし誰もがその通りだという圧倒的な説得力がある一方で、これは非常に浅はかです。

「貞=正しい」と解釈すれば、その正しさは人の解釈で千差万別であり、「正しい者=勝者」であるならば、繋辞上伝第12章第3節でも読み解いた通り、繰り返される天災による災害の多くは、人間自身が浅はかな「正しさ」そして自然を制するという「勝者」という概念を追求した結果でしょう。

易経「繋辞上伝」を読み解く42
繋辞上伝を読み解く 12章第3節易経は行動を束縛する戒律ではなく、必要な行動を促す啓蒙の書です。

すでに何度も読み解いてきた通り、「吉=陽=生成化育」「凶=陰=還元再生」で、陰陽の本質は結果的に「何かを生じる」という目的に終始します。そこには陰陽共に善悪という概念を超えた、ただひたすら各々の本質に即した無償、無我、無欲の行動です。

従って「貞」は勿論正しいということではあるが、「正しい」だけではその意を覆いつくして表現するには物足りません。いうなれば何かを生じるに返礼、報酬を求めない至善の発露である「愛」であります。

そして「勝」は勝負、勝敗ではなくこの文字の意味する「たえる、よくする、ことごとく、残らず」という意を汲んで解釈し、「尽」の文字を当てはめて解釈すると、この節続く句の解釈が実に味わい深くなります。

「天地の道は、貞にして観(しめ)す者なり。日月の道は、貞にして明らかなる者なり。」

「天地間に示される“天道”も“地道”もまた、その陰陽の法則に適った道、すなわち“愛”としてこれを惜しみなく人間に尽くす。空をめぐる太陽や月の運行もまた、これらの働きを象徴的に示すものである。」

この句の日月は陰陽の象徴であり、「日(太陽)=陽」と「月=陰」とでその各々の作用を象徴して表します。植物であれば太陽が照る日中は盛んに光合成をおこなって枝葉を伸ばしますが、一転夜間は日中に蓄えた陽の力を受けて、今度は地中に根を深く伸ばします。

動物であれば、日中は盛んに活動し、食物を摂取しますが、夜間は体を休めて日中に摂取した食物の栄養を体の中に蓄えて明日への活力として備えます。

この作用は「善悪」の範疇には収まらない、ごく自然な営みであり。ここを以て「吉凶=善悪」「貞=正しい」という解釈は、誤りではないが狭義であると言わざるを得ません。それは次の一句にこのように集約されるからです。

「天下の動は、かの一に貞なる者なり。」

「天地間に行われるあらゆる事象、生じるあらゆる存在は全てこの陰陽が織りなす“生じる”という作用の結果に他ならない」

朱熹は「勝」を吉が凶に勝ち、凶が吉に勝つ相互作用と解釈するし、王申子の「折中」においては吉を善、凶を悪と解釈し「善が悪に勝つことを“貞=常道”」と説きます。

しかし乾為天の上爻「亢龍悔い有り」、坤為地の上爻の「龍野に戦う」で、陰陽どちらか一方が相手を駆逐することは破滅であると易経冒頭で警告していることからも、吉凶=善悪の解釈は、善が悪を駆逐する…それが正しい事だ…ともすれば、その「貞」が人間的な解釈においては暴走しかねない、論理の飛躍を招くところです。

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易経の示す本質は、尽きることの無い「生じる」作用であって、そこに善悪の概念は存在せず、そこにはただ乾=陽、坤=陰の相互作用、則ち乾道、坤道の二つ、すなわち「易簡」に帰結します。これは続く第3節にて改めて孔子自ら解説する所であり、その文脈の接続性を考えても明らかなところです。

易経「繋辞下伝」を読み解く3
易経繋辞下伝を読み解く吉凶占断から導く行動規範の読み解き方を説く
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