易経「繋辞下伝」を読み解く27
天地絪縕(いんうん)して、万物化醇(かじゅん)し、男女精(せい)を構(あわ)せて、万物化生す。易に曰く、三人行けば一人を損(へ)らす、一人行けばその友を得と。一を致すべきを言えるなり。(繋辞下伝第5章12節)
「天地 絪縕 して、万物化醇し、男女精を構せて、万物化生す。易に曰く、三人行けば一人を損す、一人行けばその友を得と。一を致すべきを言えるなり。」
「天地陰陽の氣が入り混じり天地にみなぎり、万物が生成化育される。男(陽)女(陰)はその精を合わせて、万物と為して形をかえて生れることを言う。山沢損の卦辞はいう、“三人で行けば一人をそこなう、一人で行けばその友を得ることができる”と。陰陽調和の作用、そのひとつになることの偉大さと漏らすことの無い精緻さをいうのである。」
君臣上下間の理想的像とは?
山沢損は上卦が「艮(少男)」下卦が「兌(少女)」で、八卦同士で応じています。また爻も陽爻と陰爻の数もそれぞれ3つずつでバランスが取れています。
卦象も艮(山)、兌(川)で百花草木、百獣住まう自然環境を表す卦です。
このような環境は、全て陰陽の精氣が入り混じり相互に程よく作用する事で生じた万物の集合体、すなわち大自然です。
山沢損の卦徳は、三爻に陰爻と上爻の陽爻が入れ替わると地天泰の大吉卦となります上卦がその一陽を下卦に下げ施す有り様を「損」とする。その損は、損失、損得と言った得失のような狭義ではなく、集団の上に立つ統治者やリーダーのあり様を説く卦です。
一方でそう言った徳のある統治者ならば、下に従う者達も喜んでその統治者を支える。上卦は艮で山ですから、下卦の兌の沢が喜んで(兌の象意)己の沢の底を深くすれば、深くした分だけ、その山はいよいよ高くなります。
ゆえに地天泰の時に下卦がその一陽を上に捧げることで、地天泰の時がより長く安定する。この様子もまた「損」であり、上に立つ者、下に支える者達の程よい関係にある事を山沢損の卦は説きます。
「三人行けば一人を損す」とは、地天泰の時のあってその統治を称えて衆人が徳のある統治者に一陽を捧げる様で、「一人行けばその友を得」とは山沢損の時にあって、統治者である上卦がその一陽を下卦に下げ施す様子です。
この様な陰陽の程よい調和の様を孔子は国の統治者と臣民の関係に例え、「一を致すべきを言えるなり」と評します。陰陽の程よい調和が及ぼすその偉大な作用には、決してそこから取りこぼすことの無い精緻さを併せ持つことを、孔子は君臣の関係の理想像として見出します。
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