易経「繋辞下伝」を読み解く39
「若(も)し夫(そ)れ物を雜(まじ)え徳を撰(そな)え、是と非を辯(べん)じるは、則ち其の中爻に非(あらわ)ざれば備わらず。噫(ああ)、亦た存亡吉凶を要すれば、則ち居ながらにして知る可しや。知者、其彖(たん)辭(辞)を観れば。則ち思い半ばに過ぎんや。」(繋辞下伝第9章第2節)
「若し夫れ物を雜え徳を撰え、是と非を辯じるは、則ち其の中爻に非ざれば備わらず。噫、亦た存亡吉凶を要すれば、則ち居ながらにして知る可しや。知者、其彖辭を観れば。則ち思い半ばに過ぎんや。」
「ところで、卦象を表す陰爻(- -)と陽爻(—)の交わりを察し、その卦象の表す性質やその卦徳を読み解き吉凶の断を下すということは、初爻や上爻を除いた二爻から五爻までの中間にある爻を以て判断しなければならない。
物事の吉凶のみならず、その栄枯盛衰ですらも易の卦辞や爻辞を読み込めば、居ながらにして一目瞭然である。
易の摂理を理解した智者はその卦辞を観るだけで、物事のおおよその大意はつかめるのである」
初爻と上爻を器とし、二爻から五爻をその中身とする
易経の卦の見方に「互卦」あるいは「互体」という見方があります。
これは易の卦象の二爻から四爻までを内卦(下卦)、三爻から五爻までを外卦(上卦)として本卦とは別にもう一つの卦象を見出します。
互卦は往々にして、その本卦の卦象が顕す卦徳の内包する要素を表します。
例えば「風火家人」と言う卦は家庭円満を表す卦ですが、その内包する所には「火水未済」という未完成の卦が含まれていて、まだまだ未完成という円満の状態に安住する勿れと言う戒めを感じさせます。
ところで、易の卦辞、すなわちその卦象を要約したところには、その卦の表すところの方向性、すなわち生成発展の陽の方向性である吉か、還元再生の陰の方向性である凶が端的に示されています。
物事の吉凶を断じるのであれば、この卦辞を読めばその吉凶の方向性は明らかであるので、易経に通達した熟練の易者であれば、繭から糸をつむぐようにそこから物事の原因や行く末を紡ぎ出すことできる。
その読み解きは、なにも各爻に掛けられた辞だけでなく、上卦、内卦を構成する八卦の象意、互卦の示す卦徳、本卦を逆さにした綜卦や陰陽反転させた錯卦などを駆使して、自在にその時を理解します。
易経の理解の一歩として、64卦を1から64まで順番に暗記するのではなく、現実に見聞きしたり起こった事象に照らし合わせ、その符合する所を易の卦象の中から抽出する。ここをもって、その卦が現実に即しているのか?それとも中身のない形に過ぎないのかを察する必要があります。
易占においては、コインやサイコロを振るにせよ、筮竹を以て卦を立てるにせよ、一連の作業を成せば必ず卦は出ますが、それが内容がある卦なのか、中身のない容れものに過ぎないのか、術者はここを見極める必要があります。
互体を取るにせよ、易の卦象に八卦を見出すにせよ、二爻から五爻の存在無くしてどちらもこれを見出せませんから、「則ち其の中爻に非ざれば備わらず」と孔子が解説したことは、易経を學ぶうえでごく当然の事なのです。
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