易経「繋辞下伝」を読み解く43
「それ乾は、天下の至健(しけん)なり。徳行恒(つね)に易(い)にしてもって険を知る。それ坤は、天下の至順(しじゅん)なり。徳行恒に簡にしてもって阻を知る。」(易経繋辞下伝第12章第1節)
「それ乾は、天下の至健なり。徳行恒に易にしてもって険を知る。それ坤は、天下の至順なり。徳行恒に簡にしてもって阻を知る。」
「易の卦の乾(乾為天)は、剛にして健の性質を持ち、その働きはどのような方向にも自由にとどまることなく進みゆくことが出来る。
進みゆく方向性は自由であっても、その進行は真っ直ぐであり、一方でその進行にあたっては滞りの無いよう、予め障害や険阻な道を避けて通達するのである。
易の卦の坤(坤為地)は、柔にして順の性質を持ち、その働きはいかなる方向性であっても発する陽の氣を真正面から受け止めるのである。一方でその容易く受け止めるに当たっては、予め受け止める方向にある困難を予測して、その困難を取り除くのである」
困難を予測する乾の徳、困難を除去する坤の徳
難解な一文です。
例えるならば、乾を投手、坤を捕手とします。
乾の投手は、予め打席に立つ打者の弱点を知り尽くし、打者が絶対に打つことの出来ないコースに剛速球を投げ込みます。
坤の捕手は、予め打者が打つことの出来ないコースやその癖を読み解いて、乾の投手にサインとして送るのです。
乾が先か、坤が先かではなく、乾の投手が球を投げる前に坤の捕手とのサインの交換が済んでいるのだから、乾は自信を以て坤めがけてその剛速球を投げ込むし、坤の捕手もその球が絶対に打者に打たれることは無いと、確信を得ているので逸らすことなくしっかりと受け止める。
野球に例えるならば三球三振で九回を81球で投げ終わって勝利する、バッテリーの関係が乾と坤の関係でしょう。
だから易の卦の大始である乾為天と坤為地は別々独立した卦でありながら、乾坤一体で解釈すべき卦でもあるのです。
但しその作用もまた陰易の卦の大始である乾為天と坤為地は別々独立した卦でありながら、乾坤一体で解釈すべき卦でもあります。
ただし乾為天、坤為地のそれぞれ全陽、全陰の卦の中においても陰陽の交わりが確認できます。
陽は真っ直ぐでありながら困難を避け得る柔軟性を併せ持つ。
一方で坤は、乾の陽氣を受け止める柔順さでありながら、困難を除去するという能動性を併せ持ちます。
陰と陽との交わりが万物が生じる大始、大本ですが、その発生の源は「捻じれ=螺旋」にあります。
全陽の卦、乾為天は剛陽の性質の中にその爻辞にある「潜龍用いる勿れ」や「君子終日乾乾。夕掦若」の様に、剛健の中にある種の従順さを併せ持つ。
一方で全陰の卦、坤為地もまた柔順の性質の中にその爻辞にある「直方大也」「括嚢」の様に、あえて決然と従順であることを選ぶという剛陽さを感じさせます。
これは全陽、全陰の卦中にあってもそのある種の矛盾、「捻じれ=螺旋」の作用を併せ持つことで、乾為天や坤為地以外の卦と同様に爻においての陰陽交わりの作用を内包していると読み解くことが出来ます。
捻じれた物は元に戻そうとする反作用が働くし、縄と縄が捻じれることで結びつきのより強い綱となるように、あらゆるものを構成するDNAが螺旋形状を構成して、万物を生成発展していく様子は、それを模した易の卦象の中に見て取ることが出来るのです。
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