桜田虎門著「五行易指南」現代語訳
「五行易」における国内初の解説書として定評のある桜田虎門(鼓缶子)先生の「五行易指南」の現代語訳を試みます。一部、易照の注釈を加えます。
本書は江戸時代に表された国内初の「五行易」の解説書であり、主に「卜筮正宗」を下地にかかれており、その誤りの無い点では「五行易」中興の祖である九鬼盛隆先生も高く評価しています。
巻1 五行易の説
凡そ周易は陰陽二つの爻の動静(※1)や進退をみて吉凶、物事の行く末を断じるのであるが、(老子や)荘子は易を陰陽を以てこれを「道」と呼ぶところである。天地間には陰陽二つの氣以外にほかに氣は無く、これを伏羲が陰陽奇偶(※2)の二象を表し、これを用いて民に吉凶を示されたことを始めとし、さらにこの陰陽を三つ重ねて八卦を定め、これを重ねることで六爻からなる64卦、384爻を定めた。
これらは全て陰陽が変化、交雑することで天地間に繰り広げられるあらゆる事象、その数は数多と雖もことごとくこの64卦を以て表すことができるのである。周の文王及びその子周公旦が「辞」として掛けられたものは、この64卦をより詳らかに解説したものである。陰陽は象という形であり、周易はこの象(かたち)を以て吉凶や事の本質を明らかにするものである。
故に朱熹は「周易本義」を著して、象を中心に易を系統立て、それまで信奉されてきた程子(※3)の説のみに拠ることなく、これを易経の成立より後に表された古典をつぶさに研究通読し、ここに伏羲、周の文王、周公旦の至った易の本質を得られたのである。
これは数多の儒家の論じる所であって、私のような未熟者の説を述べるに及ばない。しかし、今ここに述べる「五行易」というものは、五行の「生・剋」の関係を制度化し、その強弱よりあらゆる事象の吉凶変化を断じる。
陰陽の働きから五行が生じ、その五行の相互作用から万物が“生成化育”“還元再生”される。天地間に存在する万物の中に、一つとしてこの五行の相互作用の関係から逸脱したものは存在しない。故にこの理論を以て物事の吉凶や盛衰を推断することは、周易の象を中心に吉凶を断じることと同じであって、周易と五行易は全く異なる物というわけではない。
但し、五行は陰陽の作用よりもより細かく相互に作用するために、陰陽の変化作用のみを用いて吉凶を断じることに比べると、更に精緻に物事を的確に断じることができるのである。「五行易」用いれば物事の成就の時期を表すに、一日とその時期を違えず、また吉凶を断じるにその結果を実に明瞭に表す。
また月や年をまたいでの長期のことを断じるに、周易ではその時期を言い表すのはせいぜい春夏秋冬の四季にとどまり、それでは春の具体的に2月であるのか、それとも3月であるのか、夏というならばそれが4月であるのか、それとも5月であるのかを断じるには、周易を学んでまだ日の浅い者にとってはそれを断じることは非常に難しい。しかし、五行易であればその機関を学ぶことにより、学の深い浅いに関わらず、これを明確に表すことができるのである。その他、諸々の事象についても周易と五行易をもって比べれば、同じようなことが言えるのである。
私は15歳(若冠)の頃より周易について学び研究を行ってきたのであるが、卜筮に関するの研究書はそのほとんどが日本国内、中国においても象より吉凶を断じる朱熹の「周易本義」の説に従うものが多い。しかしその大半は程子の「伊川易伝」の説とさほど変わらず、近代においてはこの象について事細かく解説した書もあるが、その解説は易経の本質に迫るものではなく、その理解についても深い洞察を伴わないために、朱熹の「周易本義」を曲解したり、かえって三聖(※4)の示した易経の本質を損なっている物も多い。だから私は、周易について著述した数多の儒家の説を参考にはするもののこれに依拠するようなことはしない。
一方で、中国清朝の康熙帝の時代の説(※5)は非常に優れており、これを更に研究を深めたいところであるが、残念なことにこの「五行易」について解説した書は極めて少なく、そもそも「五行易」に至っては周の文王、周公旦は述べ伝えることはなされなかったし、数多の儒家たちも取るに足らない雑説とこれを研究することもなかった。
不肖甚だ浅学未熟な身でもあり、一時期この「五行易」の説を雑説と退け深く研究することもなかったが、近年中国より「断易」「易冒」(※6)等で解説されている方法を以て占う者が、実に明快にまた細部に至るまで断じる所を見て、試しにその方法を以て断じたものを研究するにつれ、実に験のある実占例が数多く得られた。既に近年中国より我が国にも伝わった王西山(王洪緒)著の「卜筮正宗」を読む機会があり、この断法は其れまでの「断易(増冊卜易)」や「易冒」の断法に比べても、よりいっそう精緻でありその論説はことごとく的を得ている。
試しにこの断法を以て断じた所ことごとく的中するのを目の当たりにし、この断法を雑説と退けてしまうのは大きな過ちであるいうことを悟るに至った。この断法は五行を各爻に配し、その五行の相関関係を以て吉凶を断じるものであるので、これを新たに「五行易」と名付けて周易の断法とは分けようと思う。
周易は陰陽の相互作用や本卦と之卦の変化より吉凶や物事の帰結を断じるのであるが、「五行易」は主に各爻に配された五行の「生や剋」の関係を重視する。陰爻(- -)陽爻(—)が発動し、五行を生じ、また変化してあらゆるものを生じるということは、陰陽の相互作用がその根底にあるのではあるが、五行の相互作用を考えると、よりその理解が深まるのである。
五経の一つ書経の「洪範」の一節に、五行を以て吉凶を断じるという説が述べられており、今この「五行易」は洪範の説に、周易の説を加えて成立した解釈されているが、それでは少し偏りがあるので、ここにより詳しく解説を試みる。ここで、この断法の概略を示せば、この断法は周の文王、周公旦が述べ伝えず、また数多の儒家が雑説と退け研究しなかった断法であり、決して雑説と一蹴するには惜しい理がある。ましてや一般人にとって非常に切迫した問題を断じるに、この断法を用いて大いに験有ることは、100回占って1回も外れたことが無いのである。
確かに「五行易」という断法が明らかになってきたのは近年のことではあるが、その理論そのものは五行の相関関係にあるのであるから、これを雑説とないがしろにすることはできないだろう
(※1)本筮法又は中筮法で占って本卦之卦を出した際、「老陽」または「老陰」となる爻は陰陽反転する動爻となる (※2)陽爻(—)を奇、陰爻(- -)を偶と定める (※3)程頥(ていい)宋代の学者。著書に易経の解釈書「伊川易伝」があり、朱熹の「周易本義」と並ぶ古典的名著とされる (※4)伏羲、周の文王、周公旦 (※5)このころ、「五行易」が「断易」として一般に伝来か? (※)「断易」=増冊卜易のことか?「易冒」程元如著、清代の断易の書
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