易経「繋辞下伝」を読み解く7
包犠氏没して、神農(しんのう)氏作(おこ)る。木をきりて耜(し)と為し、木を揉(たわ)めて耒(らい)と為し、耒耨(らいどう)の利(り)、もって天下に教うるは、蓋(けだ)しこれを益(えき)に取る。(繋辞下伝第2章第3節)
「 包犠氏没して、神農(しんのう)氏作(おこ)る。木をきりて耜(し)と為し、木を揉(たわ)めて耒(らい)と為し、耒耨(らいどう)の利(り)、もって天下に教うるは、蓋(けだ)しこれを益(えき)に取る。 」
「聖人の伏羲が没した後、神農氏が現れた。木を削って鋤を作り、また木を曲げて鋤の柄とし、田畑の草を取る農具を次々に考案した。神農氏は木を以て農具を天下の万民に伝えたのであるが、おそらくこの鋤という道具は、“風雷益”の卦の象を参考に発明したものであろう」
「風雷益」は、下卦が震(木)、上卦が巽(木)で五行は木です。
神農氏の活躍した時代は、まだ青銅器、鉄器が発明される以前でしたから、農具は全て木製であった時代です。
鋤の象を見ると、「風雷益」の象に似ている。この形を参考に、神農氏が鋤を考案したと孔子は説明します。
また下卦の震には「動く」という象意があり、上卦の「巽」には「入り込む」という象意がある。従って、これらの八卦の象意をくみあわせると、人が柄を握って鋤の先を土に突き刺すという姿を現したと解釈しています。
少し深く読み込むと、二爻、三爻、四爻で「坤(地)」ですから田畑を表します。四爻、五爻、上爻の「巽」には入り込むの象意がありますから、陽爻(—)は坤の畑の土に鋤が突き刺さっている様子をあらわしています。三爻、四爻、五爻で「艮(山)」ですから、これは畑の畝ともみて取れます。
さらに初爻から五爻の間で上卦、下卦と「互卦」を取れば、初爻、二爻、三爻で震、三爻、四爻、五爻で艮が見て取れ、これを合わせると「山雷頥」でありますから、頥卦の卦徳より「養う」ということから、農作物の栽培の為…という目的を見て取ることができます。
日中に市(いち)を為し、天下の民を致し、天下の貨を聚(あつ)め、交易して退き、各々その所を得るは、蓋しこれを噬(ぜい)こうに取る。(繋辞下伝第2章第4節)
「 日中に市(いち)を為し、天下の民を致し、天下の貨を聚(あつ)め、交易して退き、各々その所を得るは、蓋しこれを噬(ぜい)こうに取る。」
「また神農氏は、昼日中には街に市を起こし、天下万民を広く集め、物品を持ち寄らせ、それを望む物と交換させ持ち帰らせることを考案した。おそらくこれは“火雷噬嗑”の卦の象を参考にしたのであろう。」
「火雷噬嗑」の卦は上卦が離(火)であり、真昼の太陽を表します。下卦の震(木)を人、又は作った農作物に見立て、それが震(動く)から「市場」の象であると孔子は説明します。
初爻と上爻の陽爻(—)を市場の関所とし、四爻の陽爻(—)を市場を監督する役人と見る。
もう少し深く読み込むのであれば、三爻、四爻、五爻に「坎(水)」がありますから、その象意「陥る=集まる」と読み取ることも可能でしょう。また二爻、三爻、四爻を以て「艮(山)」と見れば、市場にうずたかく積まれた物品の山、一方で艮の象意「止」より、市場に集まり物品の山の前に足を止める人々の様子でもあるわけです。
この卦も初爻から四爻の間で上卦、下卦の「互卦」を取れば、前句同様「山雷頥」を取れますので、食料を持ち寄るという目的を見て取ることができます。
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